名古屋高等裁判所金沢支部 昭和31年(う)58号 判決
記録に依れば本件公訴事実は「被告人は、昭和三十年四月二十三日施行の福井県議会議員選挙に際し、丹生郡選挙区より立候補した上田千代三郎の選挙運動者であるが、第一、同年四月十七日頃同郡越前町厨の右上田千代三郎方に於て、同候補者の選挙運動者である河上数馬から、同候補者のため投票並にその取纏め等の運動を依頼され、その報酬並に投票買収資金等の趣旨の下に供与されるものであることの情を知り乍ら、現金三千円の供与を受け、第二、同月二十二日頃肩書住居の被告人方に於て、前同選挙運動者である伊藤孝一から、前同趣旨の下に供与されるものであることの情を知り乍ら、現金二千円の供与を受けたものである。」と言うにあるところ、これに対し原判決は、右第一及び第二の各受供与の事実を、継続の犯意より出たものとして、包括一個の犯罪と認定し、該事実について公職選挙法第二百二十一条第一項第四号、罰金等臨時措置法第二条、公職選挙法第二百五十二条第三項等を適用し、被告人に対し罰金壱万五千円、公民権不停止の言渡をしたものであることを認め得る。しかしながら、連続犯に関する刑法第五十五条の規定が削除された現行刑法のもとに於ては、旧法時代の犯意継続なる概念を濫りに復活し、所謂犯意継続に係るの故を以て、予見の限度を超えた領域に迄、一罪の範囲を拡大すべきでないことは、敢て此処に説明する迄もなく、しかるに、いま、原判決挙示の各証拠内容を仔細に検討すれば、前掲前後二回に亘る行為は、行為の日時、場所並に其の相手方を、それぞれ異にするのみならず、二個の行為に対する包括的な予見もなく、従つて、これを包括一罪と認定するよりは、寧ろこれを各別罪と認めるのが相当であると考えられるから、以上と見解を異にし、二個の公訴事実を一罪と認定した原判決は、畢竟するに証拠の判断を誤り、延いて事実を誤認したものと言うの外なく、その誤りは判決に影響するから、論旨は理由があり、原判決は此の点に於て破棄を免れない。
(裁判長判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫 判事 木村直行)